Gunslinger Girlで学ぶイタリア語 #3

今日はtuとleiの話

イタリア語を学習するとすぐに出てくるのがこのtuとlei、二人称単数が二つあるのはややこしいですよね。

日本人は英語を義務教育として学ぶわけですが、英語の二人称単数は一つだけだし(それどころか二人称複数も兼ねているわけだし)、名詞の姓はないし、…ということで、ある意味「単純」な言語なのかもしれません。時制の数も少ないし。

自分は第二外国語がドイツ語だったので、(だいぶ忘れていたけど)二人称単数が二つということには特に違和感はありませんでした。

この記事を書くにあたって少し検索してみましたが、「タメ口と敬語」「カジュアルとフォーマル」などと説明されていることが多いようです。

 

ガンスリンガーガールでは… (ネタバレあり)

ガンスリンガーガール イタリア語版でこのtuとleiが効果的に使われていたのは8巻の最後。ネタバレを承知で書いてしまうと、ある女性が男性に対してそれまでleiで呼んでいたのが、tuになる…というシーンがあります。

女性と言っても機械化されており、担当官である男性に逆らわないよう洗脳されているという設定。そのため、男性のことをleiで呼んでおり、tuで呼ぶなんてとんでもない。女性は男性に対する愛情が芽生えたことを告白するのだが、男性はそれを洗脳(作中の言葉では「条件付け」)によるものだ、違うならば証明してみろ、俺のことをバカ野郎と呼んでみろ、…と言うのです。

そこで女性が言うのがこれ。洗脳のため本来担当官にこんなことを言うことはできないはずなのに、自分の愛を信じてもらうために洗脳に逆らって無理にこれを口にするのです。まさに魂の叫びです。このシーンはガンスリンガーガール全15巻の中でも、ベストいくつに入るようないいシーンだと思います…。

Alessandro, pezzo di merda!! Non capisci un cazzo!!

くそったれのアレッサンドロ!! このわからず屋!!

(第8巻 第44話 レディ・ロッソ(5))

この少し前のコマでは Il fatto che io l'amo と言っているので、「わからず屋」のセリフのところでleiからtuに変わったことがわかります。「わからず屋」のセリフの次のページでは

Ti amo così tanto...!!

こんなに…、愛してるのに…!!!

とも言っています。前述のとおり、少し前までは l'amo だったので、変化したことがよくわかりますね。同じページで Perché non mi credi!? (どうして信じてくれないの!?)とも言っています。というより、この後はずっと tu になっており、「わからず屋」のセリフが重要な転機だったことがわかります。

日本語版でもある程度の言葉の変化はあるように思いますが、イタリア語版ではその変化をtuとleiで鮮やかに表現しており、むしろオリジナルよりも感動的になっているとさえ思います。

 

その他の担当官・義体のペアではどうなのか…と思い、パラパラと見てみましたが、ヘンリエッタ、リコ、トリエラ、クラエス、…すべて自分の担当官に tu で話しているようです。リコはジャンのことを呼んでいるシーンが少なく見つけるのが大変でしたが、scusami や senti と言っているので、tu なんだろうなと。日本語版でも担当官を(最初のうち)様づけで呼んでいたのは上に書いたペトルーシュカだけなので、合っていると言えば合っています。ただ、日本語版では義体はみな丁寧語ですが。(義体は少女、担当官は成人男性という組み合わせで、年が離れているからでしょう) このあたり、tu と lei の違いが一概に「タメ口と丁寧語」とも言い切れない部分かなと思います。

 

「タメ口と丁寧語」に当てはまらない場合

これはドイツ語の話になるのですが、大学で第二外国語としてドイツ語を学んでいたとき、当時の先生が(もうお名前も忘れてしまったのですが)、「Duというのは気持ちが近いという風にとらえるとよい。たとえば、神様のことも du というし、喧嘩のときも du と言う。ドイツで運転していたときに、トラブルがあって、向こうの車から降りてきた男がいきなり du と言ってきたが、親しみを込めて言っているのではなかった」…とおっしゃっていました。

今回この記事を書くまでサボって調べていなかったのですが、確かにドイツ語の「主の祈り」を検索してみると du になっています。

同じく、イタリア語の「主の祈り」も tu でした。なるほど先生の言っていたことは正しいのだな…と三十年ぶりに思った次第です。喧嘩のときに du  (イタリア語なら tu)と言うのかどうかは確認できませんでしたが…。

 

主の祈りはこちらで。

Padre nostro - Le preghiere - Vatican News

 

 

過去の記事はこちら

 

nhirose17.hatenablog.com

 

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