波長は周波数ではない(Project Hail Maryの話の続き)

結局まだ読んでる

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」(邦訳)については、「読まないことにした」と言ったのに、結局まだパラパラ読んでいるのだ…。

もう、細かいことは言ってもしかたないし、書くだけ感じ悪いからやめようと思っていたのだが、いやしかし、これは言いたい!

波長 (wavelength) を周波数 (frequency) と訳しているのは、さすがにひどい。ぜんぜん違う…というか、むしろ、逆の意味の言葉ではないか。歩幅と歩数ぐらい違う言葉だよ。(歩数というよりペースか…?)

「なんかよくわからない言葉がいろいろ出てきたけど、似たような感じの言葉みたいだから、統一しといた方が読者に親切でしょ?」ぐらいな意識だったのだろうか。あまりに驚いたので3回ぐらい確かめてしまったほどだ。(いまもう一度確かめた。4度目だ)

この小説きっと理系の読者が多いと思うんだが、よく文句が出ないな。物理全然ダメだった自分でも、ここは読んでいて「あれ?」ってなったよ。一度原文で読んだ(そして、そのときに波長と周波数のことを思い出していた)からかもしれないけど。

何にしても、ある言葉と別の言葉を混同したなら超初歩的な誤訳だし、意図的に置き換えたのであればよりひどい誤訳だと言える。どちらだとしてもこれは本当に残念。残念で仕方がない。

 

言わないつもりでいたけど

binを「ビン」と訳しているのはどうかと思う。カタカナ語の「ビン」で通じるほど一般化していないので、何か日本語の訳語を考えるべきだったのでは。

「ビン」とカタカナで書かれると、普通は「瓶」のことだと思うだろう。だが、瓶はbottleである。

binを「ビン」にしたのは、「いい訳語がなかったからしかたなくカタカナ表記にしたんですよ」という可能性がゼロではない。ゼロではないものの、おそらくそういう理由ではないだろうと邪推する。

 

もう一つ。

「ぼくはトイレ(もしくは"船首"と呼ぶべきか、ここは船の上なんだから)」という箇所。原文ではheadだ。

原文で読んだとき、わからなくて辞書を引いたのだが、辞書のheadの項の最後の最後に「俗語で船のトイレ」という意味が出ていた。自分はこの言葉は(もちろん)知らなかったのだが、前後の関係から、「このheadという言葉はトイレを指す言葉、しかも船乗りの言葉なんだろうな」というのは予測していたし、辞書を引いたのは調べるためというより、むしろ答え合わせのためだった。これは前後の関係を考えれば当然誰でも予測できるようなことなので、「head そして船、ならば船首だ!」と反射神経的に訳していたのだとしたら、残念でならない。

 

とはいえ…

ところどころにある訳注はとてもありがたい。

白状すると、Hail Maryというのが「神頼み」「一発逆転」というのは知らなかった。Thin red lineというのは「決まり文句だったはずだけど、何だったっけ」だったし、Curly, Moe, Larryというのはまったく知らなかった。(調べりゃよかったのに、特に考えもせず通過してしまった)

そういうところに気を利かせられるなら、日本語訳ももうちょっときちんとできると思うんだけどなぁ。

そう、いくつかの誤訳を見て思うのは、「まったく意味のわからんトンチンカンな誤訳」よりも、「なんか、ちゃんとしてない」(上に書いた、wavelength → 周波数、のような)箇所が多いのではないか、ということだ。「ちゃんとやる」だけでだいぶ違ったんじゃないのかなぁ…。