字幕は難しい… #1

とりあえず、#1

字幕のことはこれからも書く機会がありそうなので、とりあえず「#1」としておきました。

 

なっち語

古い映画ですが、「Streets of Fire」を見直しておりました。難しい筋のない映画なので、ぼーっとしていたいときにはちょうどいいです。あと、音楽がいい。最後に流れる Tonight is what it means to be young が最高にいいわけですが、「今夜はANGEL」(ドラマ「ヤヌスの鏡」主題歌)のオリジナルバージョンという方が通りがいいのかもしれません。

動画を探していたら、デーモン小暮閣下が歌っているのがありました。本題には関係ないですが、かっこよかったので貼っておきます…。

youtu.be

 

DVDもAmazonプライムも字幕は同じで、「なっち語」で皆様おなじみ(?)の戸田奈津子さんでした。戸田奈津子さんについてはいろいろと批判もあり、まとめのページなんかもできているわけですが(たとえば、これ↓)、いやしかし、字幕ってやってみると意外と難しいもんですよ…。

https://matome.naver.jp/odai/2134241468633612601

 

字幕のむずかしさ

字幕の難しさはいろいろあると思いますが、ぱっと思いつくのは、こんなところでしょうか。

  • 少ない文字数におさめないといけない
  • 外国にしかないもの(日本にないもの)をわからせないといけない
  • 日本語として自然な言い方にするのが難しい

 

文字数の話はもう誰でも言うので、ちょっと視点を変えて、「日本語としての自然さ」について。

Streets of Fireの真ん中の方で、主人公と悪役が対峙する場面があります。

どちらも、年齢としては二十代ぐらいの設定でしょう。主人公 (Tom) はいわゆるちょっと「やんちゃ」な奴。悪役 (Raven) は完全に悪い奴、不良少年グループのリーダーです。で、35年前とかの映画なのですが、そのときの感覚からしても、ちょっとどこか懐かしさを感じるような舞台背景です。冒頭に「Another time, Another place ... 」とクレジットされるように、時代がいつなのかということははっきりとは言われていません。が、あまりに最新の流行り言葉だとそれはそれで不自然な感じがする、ようには思います。

 

R: Well.... Looks like I finally ran into someone that likes to play as rough as I do.

T: Yeah, this must be your lucky night.

R: I'm lucky? I guess maybe I am. And you are dumb, real dumb, if you think you can pull this off.

T: I tnink you're forgetting something. I got the gun.

R: I can get guns, smart guy. Lots of 'em. Now, why don't you tell me your name.

T: Tom Cody. Pleased to meet ya.

R: I'll be coming for her. And I'll be coming for you too. 

T: Sure, you will, and I'll be waitin'.

 

ここで、なっちバージョンでは「こっちにはガンがあるぜ」ぐらいの訳だったわけですが、うーん、「ガン」って…。70年代とかじゃないんだからさぁ…。

が、しかし、じゃあどう訳すんだと言われると困ってしまうわけです。

銃っていうのはもちろん変。

ハジキとかチャカとかいう言葉は、古臭い上に、本職のやくざっぽい感じが強すぎます。この二人はやくざというより(ちょっと大きくなった)不良少年といった感じなので、本職の言葉はふさわしくない。しかも、ここで言っている gun は、ピストルだけではなく、ライフルとかも入ってくるので、なおのこと、ハジキ、チャカではない。

だからと言って、ライフル、というわけにもいかない。ライフルのことを含んでいるのは明らかなのですが(その前の場面でTomが使っているので)、この場面で見せているのはピストルなのです。

まだ「鉄砲」の方がマシか…とも思いますが、たぶんそれも若い男の言う言葉ではなさそう。

いろいろ考えましたが、Tom側は「言わない」、Raven側は「武器」とかかな…。以下、自分の考えてみたバージョンです。

 

レ: よう! 俺ぐらいヤンチャな奴には初めて会ったぜ。

ト: そうかい。そいつはよかったな。

レ: よかったって? まぁな。バカが。このまま済むと思ってんじゃねぇだろうな。

ト: 何か忘れてるんじゃないか? (※ピストルを見せるが、銃という言葉は出さない。つまり、2番目のセリフは省略)

レ: 武器ならこっちだってあるさ。山ほどな。名前を言って行けよ。

ト: トム・コーディだ。よろしくな。

レ: 女は取り返す。お前ともけりをつけるぜ。

ト: そうしてくれ。楽しみにしてるよ。

 

この場面、なっちバージョンではどうだったかというのは、DVDまたはAmazonプライムなどでご確認ください…。今見直してみましたが、一生懸命考えたわりに、なっちバージョンよりすごくよくなっているかというと、そこまで変わらないかな…。いやしかし、「スケ」とは言わないよなぁ、いくらなんでも。

 

こういう「言葉の古さ」の問題は、「どの役のセリフなのか」「どういう年齢層の観客を想定しているのか」によっても変わるので、難しいですね。そこに「少ない文字数」という制約も入ってくる。

「ガン」「スケ」の方が正しい場合ももちろんあると思うのです。この映画は違うと思うけど…。

逆に「俺ぐらい」という言い方がちょっと新しめすぎる場合もあるかもしれない。「俺と同じぐらい」にしないといけないかもしれない。字幕を作る方というのは考えるべきことが本当に多いので、頭が下がります…。

 

いろいろ言われていますが…

なっちこと戸田奈津子さんにはいろいろと批判もあるし、たしかに、誤訳も多いのですが、「話題作は字幕作成にあたって一度しか見せてもらえない」(情報漏洩防止のために)とか、「期限が非常に短い」といった、困難な条件の中でこれだけの本数をこなされたということは、それはそれで尊敬に値するのかなと思います。いやまぁ、確かにいろいろありますが…。

 

それでも

忘れちゃいけない。この映画のMcCoy(女性なのですが)の一人称を「おれ」にしたのは名訳だと思います!

 

 

 

この映画、ご覧になるようであれば、たとえばこちらから。最後のライブのシーンもいいし、その後のラストシーンもなかなかシャレていて、いい終わり方だと思っています。

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