字幕は難しい… #1
とりあえず、#1
字幕のことはこれからも書く機会がありそうなので、とりあえず「#1」としておきました。
なっち語
古い映画ですが、「Streets of Fire」を見直しておりました。難しい筋のない映画なので、ぼーっとしていたいときにはちょうどいいです。あと、音楽がいい。最後に流れる Tonight is what it means to be young が最高にいいわけですが、「今夜はANGEL」(ドラマ「ヤヌスの鏡」主題歌)のオリジナルバージョンという方が通りがいいのかもしれません。
動画を探していたら、デーモン小暮閣下が歌っているのがありました。本題には関係ないですが、かっこよかったので貼っておきます…。
DVDもAmazonプライムも字幕は同じで、「なっち語」で皆様おなじみ(?)の戸田奈津子さんでした。戸田奈津子さんについてはいろいろと批判もあり、まとめのページなんかもできているわけですが(たとえば、これ↓)、いやしかし、字幕ってやってみると意外と難しいもんですよ…。
https://matome.naver.jp/odai/2134241468633612601
字幕のむずかしさ
字幕の難しさはいろいろあると思いますが、ぱっと思いつくのは、こんなところでしょうか。
- 少ない文字数におさめないといけない
- 外国にしかないもの(日本にないもの)をわからせないといけない
- 日本語として自然な言い方にするのが難しい
文字数の話はもう誰でも言うので、ちょっと視点を変えて、「日本語としての自然さ」について。
Streets of Fireの真ん中の方で、主人公と悪役が対峙する場面があります。
どちらも、年齢としては二十代ぐらいの設定でしょう。主人公 (Tom) はいわゆるちょっと「やんちゃ」な奴。悪役 (Raven) は完全に悪い奴、不良少年グループのリーダーです。で、35年前とかの映画なのですが、そのときの感覚からしても、ちょっとどこか懐かしさを感じるような舞台背景です。冒頭に「Another time, Another place ... 」とクレジットされるように、時代がいつなのかということははっきりとは言われていません。が、あまりに最新の流行り言葉だとそれはそれで不自然な感じがする、ようには思います。
R: Well.... Looks like I finally ran into someone that likes to play as rough as I do.
T: Yeah, this must be your lucky night.
R: I'm lucky? I guess maybe I am. And you are dumb, real dumb, if you think you can pull this off.
T: I tnink you're forgetting something. I got the gun.
R: I can get guns, smart guy. Lots of 'em. Now, why don't you tell me your name.
T: Tom Cody. Pleased to meet ya.
R: I'll be coming for her. And I'll be coming for you too.
T: Sure, you will, and I'll be waitin'.
ここで、なっちバージョンでは「こっちにはガンがあるぜ」ぐらいの訳だったわけですが、うーん、「ガン」って…。70年代とかじゃないんだからさぁ…。
が、しかし、じゃあどう訳すんだと言われると困ってしまうわけです。
銃っていうのはもちろん変。
ハジキとかチャカとかいう言葉は、古臭い上に、本職のやくざっぽい感じが強すぎます。この二人はやくざというより(ちょっと大きくなった)不良少年といった感じなので、本職の言葉はふさわしくない。しかも、ここで言っている gun は、ピストルだけではなく、ライフルとかも入ってくるので、なおのこと、ハジキ、チャカではない。
だからと言って、ライフル、というわけにもいかない。ライフルのことを含んでいるのは明らかなのですが(その前の場面でTomが使っているので)、この場面で見せているのはピストルなのです。
まだ「鉄砲」の方がマシか…とも思いますが、たぶんそれも若い男の言う言葉ではなさそう。
いろいろ考えましたが、Tom側は「言わない」、Raven側は「武器」とかかな…。以下、自分の考えてみたバージョンです。
レ: よう! 俺ぐらいヤンチャな奴には初めて会ったぜ。
ト: そうかい。そいつはよかったな。
レ: よかったって? まぁな。バカが。このまま済むと思ってんじゃねぇだろうな。
ト: 何か忘れてるんじゃないか? (※ピストルを見せるが、銃という言葉は出さない。つまり、2番目のセリフは省略)
レ: 武器ならこっちだってあるさ。山ほどな。名前を言って行けよ。
ト: トム・コーディだ。よろしくな。
レ: 女は取り返す。お前ともけりをつけるぜ。
ト: そうしてくれ。楽しみにしてるよ。
この場面、なっちバージョンではどうだったかというのは、DVDまたはAmazonプライムなどでご確認ください…。今見直してみましたが、一生懸命考えたわりに、なっちバージョンよりすごくよくなっているかというと、そこまで変わらないかな…。いやしかし、「スケ」とは言わないよなぁ、いくらなんでも。
こういう「言葉の古さ」の問題は、「どの役のセリフなのか」「どういう年齢層の観客を想定しているのか」によっても変わるので、難しいですね。そこに「少ない文字数」という制約も入ってくる。
「ガン」「スケ」の方が正しい場合ももちろんあると思うのです。この映画は違うと思うけど…。
逆に「俺ぐらい」という言い方がちょっと新しめすぎる場合もあるかもしれない。「俺と同じぐらい」にしないといけないかもしれない。字幕を作る方というのは考えるべきことが本当に多いので、頭が下がります…。
いろいろ言われていますが…
なっちこと戸田奈津子さんにはいろいろと批判もあるし、たしかに、誤訳も多いのですが、「話題作は字幕作成にあたって一度しか見せてもらえない」(情報漏洩防止のために)とか、「期限が非常に短い」といった、困難な条件の中でこれだけの本数をこなされたということは、それはそれで尊敬に値するのかなと思います。いやまぁ、確かにいろいろありますが…。
それでも
忘れちゃいけない。この映画のMcCoy(女性なのですが)の一人称を「おれ」にしたのは名訳だと思います!
この映画、ご覧になるようであれば、たとえばこちらから。最後のライブのシーンもいいし、その後のラストシーンもなかなかシャレていて、いい終わり方だと思っています。